小絵の弾いている曲は…
ノクタ-ン♪
ずいぶん前からだが…
この曲には、泣かされた。
ショパンも、罪な曲を作曲したものである。
小絵だけかもしれないが…こんなふうになるのは。
やがて、ノクタ-ンの曲も終わるころ…
結城が小絵の弾いている指を押さえて、ピアノを弾くのを止めた…
「小絵…もう一度僕に、カプリ島の夜をくれないか」
そう言いながら、小絵を背後から、強く抱き締めていた。
-あなたは、あのカプリ島の夜を忘れていなかったのね♪
私も、あのカプリ島の夜のことは、忘れていないわ!
だから…私にも、あのカプリの最後の夜を…もう一度…下さい♪ -
二人を…もう誰も止められない。白亜の別荘には波の音さえ届かない。
ただ聞こえるのは、二人が愛し合う囁きだけだ…
桟橋に、止めているヨットも幼子のように…
眠りについているというのに、小絵も結城も眠ろうとはしない…
そして、今夜は満月…
海面には、月の光りが帯状に長く写っていた。


