「小絵 ♪
いいから、早く階段を上がってごらん… 」
-じゃあ、そうするわ。
あなた、お先にね。
でも、早くいらして〃 -
小絵は結城に言われて、
階段を上がって行った。
階段を上り詰めると、テラスになっていた。
広々としたテラスには、緑が植えられている。
テラコッタの植木鉢には、 レモン、ミカン、オリ-ブの木が、それぞれに…
そして、ブ-ゲンビリアの花も植えられ並んでいた。
ここは、二階だがテラスの正面には入口の扉があり、
小絵が、その扉を開けたら 一瞬、自分の目を疑った。
そこには、思いもしない素敵な部屋があったからだ。
その部屋の床には、白い大理石が敷き詰められていて、
広々としたリビングル-ムになっていた。
テラスからの段差は無くて、三十畳ほどの広さになっている。
今にも、ため息がでそうな小絵に、さらに驚くようなことが待っていた。
その部屋の窓からは海が一望できるようになっていたが、
窓辺に近いところには、
真っ白いグランドピアノが置かれていたからだ。
それを目にした小絵は…
小走りに近付いて行き、
そのピアノの鍵盤の蓋をあけた…
小絵は、その鍵盤を愛しそうに…そおっと…
その小絵の白い指で撫でながら、椅子に座ると…
ピアノを弾き始めた。
タタタ、タ-ン…
タタタ、タ-ン…タッタッタッ………小絵の白い指が踊りだしていた。
目を閉じピアノを弾いている小絵の頬を、涙が伝って落ちた。
その涙が、何故落ちたのかは、自分にも良くわからない…
しかし、それでも泣けた。


