そんな小絵の様子に…
下宿の仲間たちは、食事の度にけげんな顔を小絵に見せていた。
『残念だわね!
ルカのタ-ザンのような声が聞けなくて…』
どうやら…
図星のようだった。
-小絵、なぜそんなに…
幸せそうにしていられるの-
って、隣りに座っている…同じ下宿人に聞かれた。
ほんとうの理由は誰も知らないのだから、しかたがない。
それに…
下宿のマンマさえ知らないのだから、
小絵は、マンマにはちょっぴり申し訳なくて、
まともに顔を合わせられない。
『マンマ…
ごめんなさいね。何も言わなくて!
でも、その方がいいのよ…マンマ… 』
いつも、優しくしてくれていたマンマのことは一生忘れない。
『マンマがいてくれたから、小絵はこのイタリアで暮らせたのよ。
ありがとうマンマ♪ 』
毎日、朝早く起きて…
朝ご飯を作ってくれたマンマ、その味は抜群だった。
ちょっとした町のレストランの味より優れていた。
特に、粉から作るピッツァは最高だった。
『美味しい料理を食べさせてくれたマンマ…
ありがとう♪
もう、食べられないのが残念よ~』
このイタリアのマンマは、小絵のことが、心配で、心配でしかたがなかったらしく…
毎朝の挨拶を交わす時には、いつも小絵の顔を…
両手ではさみ… 顔色を確かめていた。
そんなマンマの皺くちゃの手を、小絵は忘れることはできないだろう…
過ぎし日々の出来事を、
想うと…
小絵の中でイタリアの生活が、ごちゃ雑ぜになっていた。


