船が風と海に船体をまかせて、水平線を目指すように、


小絵も結城も、心地よい風と水面に身をまかせていた。


結城は心地よさそうにして、デッキの手摺を両手で掴み…

船を漕ぐ仕草をしながら、 小絵にこう言った。



「ほんとうに、気持がいいなあ ♪


いい風…いい匂い…潮の… そして、君も…いい子だ 」


-何かおっしゃいました。 たしか、いい子とか…


私は子供あつかいなんですね-



「いやぁ、ごめん!
子供とは、思っておりませんが…

とにかく、君は…
いいひとだ♪」



-嫌ですわ!
いい子から…いいひと…
だなんて、変だわ♪-



「じゃあ…君…
つまり、どう言ったら…
いいのかなあ………


あっ、そうだ!
君はニンフのように…
優しい人だ ♪ 」



-ええっ…
私がニンフに、似ているとおっしゃるんですか?-



「実は僕、昨夜は夢を……見ましてね…

君に良く似たニンフだった。何か言ってたけど…


忘れてしまいました!」



-『結城様が、夢で見たというのは、

あのレモンの回廊にいたニンフかもしれない。

きっとそうだわ♪
レモンのニンフは何を言ったのかしら… 』-



「まあ素敵ですね…♪
お願い…結城様、
思い出してみてください。
ニンフの言った言葉を…-


「無理だよ……今は…
でも、いつかひょっこりと思いだすのかも………
しれないなあ」



半分冗談かと思うような話ばかりだが、


小絵には、冗談の話とは言えないし、思えない。



小絵は下宿の女主人、マンマがいつも語ってくれた …
ギリシア神話のせいなのか、小絵の夢にレモンのニンフが現れるようになっていた。