キミノタメノアイノウタ



縁側を歩いていると、庭のどこからか蝉の鳴き声が聞こえてきた。

なぜだか分からないけど、今年は去年より鳴き声が大きい気がして思わず耳を塞ぎたくなる。

庭からは生温い風が吹いていて、汗ばんだ体を更に不快にしていった。

(暑い……)

私は身体に風を送るように、Tシャツをバタバタと仰いだ。

我が家にある冷房機器は扇風機と燃費の悪い旧式のエアコンだけである。

……まるで、時代に取り残されているようだと思った。

数年ぶりに会った兄貴は都会に揉まれてすっかり変わっていた。

服装も髪の色も話し方さえ。

それが悪いことだとは思わないが、少しだけ寂しい気がしていた。

この町のようにゆっくり生きている私には、都会みたいに流されて生きていくのは合わないのだろう。

(あの人……なにしに来たんだろう……)

兄貴のことはまだ分かる。この町で生まれ育った人間だから、時には懐かしく思うこともあるだろう。

でも、灯吾は違う。

娯楽もない、避暑地にもならない。そんな町に来るなんて珍しい人間もいるもんだ。

私は目を細めて、空を仰いだ。

ふいに強い風が吹いて、肩までしかない髪をさらっていった。

入道雲が右から左へと流れていく。

この先一週間の天気予報は晴れ。

……今年の夏は、例年より暑くなるらしい。