「懐かしい感じの家だな……」

灯吾は玄関に足を踏み入れた途端にほうっと軽く息を吐いた。

「正直に言っていいよ。ボロイ家だって」

軽く笑いながら靴を脱ぐと、突っ立っていた灯吾も慌てて私に習った。

都会から来た灯吾にとって、木造平屋建て縁側付きの築50年の家は珍しいのかもしれない。

灯吾はその感触を確かめるように、木の柱をゆっくり撫でていた。

玄関から真っ直ぐ伸びた廊下の左手に居間、右手には台所があり、その更に奥にはトイレと風呂がある。

こちらも家に負けないくらいの年代物だ。さすがにトイレは汲み取り式ではなく水洗式にリフォームしてあるが。

「瑠菜、お袋と親父は?」

居間まで灯吾を案内すると、兄貴は当然いるはずの父さんと母さんの姿を探して言った。

「タツの家に行った。今に帰ってくるよ」

「お――!達広(たつひろ)かー!懐かしいなー。あいつも元気にしてたか?」

「変わんないよ。みんな」

……そもそもこの町に変わるものなんてない。

暑さのせいで喉が渇いているだろうと台所から麦茶を持ってくると、兄貴と灯吾は勢いよく飲み干してコップを空にした。

「客間の掃除でもしてくる」

私はそう言って居間の襖(ふすま)を閉めた。