「そういうあんたは?」
自己紹介はまず自分からということか。男は当然のように私の名前を尋ねた。
「田中瑠菜(たなかるな)。侑隆の妹」
(本当に不本意だけど)
……好きであの傍若無人な男の妹に生まれたんじゃない。
「あんたは?」
「……古河灯吾(こがとうわ)」
「灯吾はギターをやる人なの?」
灯吾はひょうたん型の黒いギターケースを背負っていた。黒いケースに光が反射して実に目立つ。
灯吾は大きく息を吸い込んで答えた。
「今は……やってない……」
(今は……?)
引っかかる言い方だった。今はやっていないのなら、なぜ邪魔にしかならない荷物を持ってきたのだろう。
首を傾げていると先に家に到着した兄貴が大きく手を振っているのが見えた。
「おーい!お前ら早く来いよ!」
「今、行く!」
兄貴の馬鹿でかい声のせいで、それ以上の話は聞けなかったのだった。



