「だから、兄貴が戻ってくるって聞いたときから不機嫌なの。灯吾のことも兄貴をたぶらかした悪い友達くらいに思ってるのかもしれない」
灯吾と兄貴の様子からしてみると、たぶらかされたのは灯吾の方に見えるけれど。
「挨拶ならせめて私がいるところでしたほうがいいよ」
「……わかった」
灯吾はその説明で納得したのか静かに頷くと、居間に戻っていった。
私は母さんの分のフォークを片付けて、既に茹で上がっていたパスタを皿に盛りつけ始めた。
1週間前、電話越しに口論している父さんを見て、相手は兄貴なんだろうとなんとなく思った。
乱暴に叩きつけられた受話器をとって、リダイアルボタンを押したのは母さんだった。
唯一の実家に帰るだけでも怒鳴りつけられて。
そこまでして兄貴が得たものは一体なんだったのだろうか。
聞いてみるのもいいかもしれない。
きっと私は。
……この町から離れるなんて考えもしないだろうから。



