キミノタメノアイノウタ


「よう、おかえり」

畳に寝そべってテレビを見ていた侑隆が、俺達を軽く手を挙げて出迎える。

あまりにも馴染み過ぎていて、今日一日ずっとその体勢でいたのかと疑いたくなる。

「……はい」

瑠菜は侑隆にアイスの入っている袋を押し付けた。

「さすが俺の妹!気が利くな」

侑隆はさも当然のように言いのけて、嬉しそうに溶け始めていたカップアイスのふたを開けた。

瑠菜はその様子を見ると呆れながら台所に入って行った。

その姿が見えなくなった頃合を見計らって口を開く。

「お前、俺に何か言うことはないか?」

「あ?ねえよ」

行儀悪くスプーンを咥えたまま答える侑隆に更に詰め寄る。

「あるだろ?コノヤロウ!!」

(わざととぼけているのか?)

胸倉を掴んでガクガクと揺さぶると、この男はようやくピンときたようだ。

「もしかして瑠菜が“俺達”のことを全く知らないってことか?」

「それに決まってんだろ!!」

「まあ瑠菜はテレビを見るほうじゃないし、俺もあえて言わなかったからな。言っても理解してもらえなかっただろうけど」

そう最後につけくわえて、侑隆は俺にアイスのカップを押し付けた。

「もう少ししたら俺の親も帰ってくる。そうしたらその理由がわかるぜ」

侑隆は穿いていたハーフパンツのポケットに手を突っ込んで、玄関に歩いていった。

玄関の扉を開ける音がして、出かけていったのだとわかった。

……押し付けられていたアイスはもう殆どが溶けていた。