「凄いな……」
感心しながら海を眺めていると、瑠菜が隣に並んだ。
「やっぱり灯吾は海も見たことなかったんだ!!」
瑠菜がしてやったりと言わんばかりにクスクスと笑い出す。
……図星だった。
海なんて連れて行ってもらったことも、自分から行こうなんて思ったこともなかった。
「気に入ったんだったら、明日また来れば?明日は学校行かなきゃなんないから、私は案内してあげられないけど」
「夏休みなんだろ?何で学校なんか行くんだよ」
「明日は学校で夏期講習があるの」
一応、受験生なんですー!と、今更のように言うと、瑠菜は麦わら帽子を被り直した。
「んじゃ、アイス買って帰ろうかー」
どこにアイスが売っているのだろうかと首を傾げていると、海岸から少し離れたところに“川崎商店”とペンキで書かれている古ぼけた看板のついている店があったことに気がついた。
俺は後ろ髪を引かれる想いで瑠菜の言葉に従った。
……母なる海は俺の心を捉えて離さなかった。



