キミノタメノアイノウタ


「どこに行く気だ?」

瑠菜はもと来た道を戻り始めるのかと思いきや、行きとは違う道を歩き出した。

「川崎商店でアイス買ってくの」

「ああ、アイスか…」

そう言われてみれば、侑隆がそんなことをほざいていた。

家を出て行く寸前まで、アイスなんて買ってこない!と宣言していたわりに、すんなりこの道を選んだ瑠菜の律儀さに笑ってしまう。

あの兄にして、この妹ありだ。

きっとガキの頃からこんな感じでこき使われていたのだろう。

その度に派手に喧嘩をしてきたに違いない。

確かにタツさんの言うとおり、余計な心配はいらないようだ。

夕日に照らされて真っ赤に光る景色を見ながら、瑠菜達がここで過ごしてきた年月を想う。

きっと大切に育まれてきたのだろう。

ここにある全てのものが自分達の味方で。

そのことに何の疑問も持たなくて。

……なんて幸せなんだろう。

少しだけ羨ましかった。

夕日が眩しくて目を細める。そうして前を見つめていると、瑠菜が弾けるような笑顔で後ろを振り返る。

「そんなにボーっとしてて良いの?ほらっ!!もうすぐ見えてくるよ」

瑠菜はそう言って、砂利道から舗装されたアスファルトの道路へと駆け出した。