キミノタメノアイノウタ


ちゃっかり恵じぃの家から拝借してきたハサミを取り出す。もちろん、畑で育った太陽の恵みをもらうためだ。

近所のよしみでタツ家の畑からお裾分けをもらうのはしょっちゅうのことである。

この位置から見ると、でっぷりと太ったナスと真っ赤に熟れたトマトが食べごろに見えた。

私は容赦なく育った野菜のヘタを切った。収穫した野菜はこれまた恵じぃの家から拝借したビニール袋に入れる。

「野菜の好き嫌いはある?」

「ないけど」

「じゃあ今日の夕飯はナスとトマトのスパゲッティに決まりね」

灯吾の意見などはなから聞く気はなかったが、好き嫌いを尋ねておくのが礼儀っというものだろう。

夕飯のメニューを決めてしまうと、私の本日の目的は見事に達成されてしまった。

仕方なく涼しい日陰に腰掛けて、灯吾の気が済むまで待つことにする。

(よくやるなあ)

膝を抱えるようにして涼んでいると、灯吾の様子がチラチラと目の端に映る。

灯吾はタツの家までの道のりと同じようにあちこち視線を巡らせていた。まるで好奇心いっぱいの子供のようだ。

よほど畑が珍しいのだろうか。

……タツの家の畑なんて、私にとっては見慣れたものだ。

さっさと日陰に避難した私と違って、灯吾は太陽の光がサンサンと降り注ぐ中、タツと同じように畑を歩き回っていた。

その時、ふいに風が吹いた。

緑の絨毯は風を受けて波打ち、私が被っていた麦わら帽子は青空の彼方へ飛んでいった。

私は帽子をなくすまいと、慌ててその後を追いかけた。

ようやく帽子を見つけ、土を払って頭にかぶり直すと、不思議なことが起こった。

……灯吾が空から何かを取り込もうとするかのように両手を広げたのだ。

(光合成?)

その姿は植物が葉を精一杯伸ばして、光を集めているようにも見えた。

(変な奴……)

灯吾はずっとそうやって立っていた。

青空と緑の間を縫うように。

この炎天下の中、飽きもせず。

……ずっと見つめていた。