「と、まあ冗談はこれくらいにしとくぜ」
今にも小言が出てきそうなのを悟ったのか、タツは素早くハサミを灯吾の手から奪い取った。
「好きなように見てけよー。今日の夕飯に出るだろうからなー」
そう言うとタツはプラスチックのカゴに入れられた野菜を肩に担いで畦道を歩いていった。中断していた収穫作業を再開するのだろう。
(もう……)
呆れながらタツの姿を見送っていると、隣でボソリと灯吾が呟いた。
「広いんだな……」
見渡す限り続いていく緑を見て、眩しそうに片手を掲げて目を細めている。
タツの家の畑はこの町でも5本の指に入るほど、広大な面積を有している。繁忙期にはパートやバイトを雇って収穫に精を出さなければならないほどだ。
「眩しいな…」
たっぷりと水を含んだ土は太陽に反射されてキラキラと輝いていた。
手塩に掛けられた野菜たちは生き生きとしていて、否応なしに食欲が掻き立てられる。
(さて、今日の夕飯は何にしようかな……)



