キミノタメノアイノウタ


恵じぃは昔からアイドルが大好きで、今のお気に入りはどうやら彼女達らしい。

還暦を過ぎた年寄りがひとりでアイドルのCDを買いに行くのはやめて欲しい、と前々からタツはぼやいていた。

「瑠菜ちゃん、達広なんか放っておいてわしと一緒にパイ娘を見よう!!」

「ごめんね、恵じぃ」

私は後ろに立っていた灯吾を指差した。

恵じぃはようやく灯吾の存在に気がつくと驚きで目を丸くした。

「珍しい!!こんな田舎に客が来るとはな!!」

嬉しそうに叫んだ恵じぃとは対照的に灯吾は黙って会釈をした。

「兄貴の友達なんだって。今から畑に案内しに行くの」

「おお、侑隆か。あいつは相変わらずわしの趣味をよくわかっておるわ」

恵じぃが悪戯っぽく笑う。

きっと兄貴は恵じぃにお土産がわりにパイ娘のCDでも持っていったのだろう。

(抜け目がないやつ……)

町を出て行くことに大反対だった恵じぃと兄貴がまともに会えば、長々とお説教が始まるに決まってる。

それを見越した上での作戦ということか。

我が兄ながらその策略家ぶりに恐ろしくなる。

「じゃあね、恵じぃ」

私は鼻歌まじりでテレビを見ている恵じぃに手を振って、タツのいる畑へと向かった。