「兄貴のことは嫌いじゃないよ。でも、時々思うの…」
風は真っ直ぐ瑠菜に吹きつけている。
「兄貴が…出て行かなかったら…私はきっとこんなに臆病にならなかったんじゃないかって」
目を細めて海を見つめる瑠菜には一体この景色はどう映っているんだろうか。
「それで気づいたら走り出してた」
瑠菜はアハハと今度はおどけるように笑い出した。
風で乱れた髪を指で梳かして耳にかける。
その仕草は何の迷いもないように見えるのに。
瑠菜の内には侑隆にすら分からない葛藤がある。
瑠菜は自分を臆病だと言う。
俺にはとてもそう感じられなかった。
だって、俺の眼には瑠菜はこの町でたくましく生きているように見えたからだ。
瑠菜が自分を臆病と言うのなら。
俺は。
……現実から目を逸らした逃亡者だった。



