pp―the piano players―

 私は、再び彼の腕の中にいた。
「君は、お父さんの言葉にまんまと騙されたんだね」
 彼の声は優しく、私の心を撫でて落ち着かせる。

 私はゆっくりと首を振った。違う、と。
 父の厳しい言葉を、聞いた瞬間はとても悲しくて腹立たしい気持ちになった。けれども、私はすぐに気付いていた。父は自分が荷物となっているから私が父の傍を離れず、様々な挑戦が出来ないのだと常々思っていたに違いない。後から聞いた話では、あのコンクールの結果はグランプリ不在、同立二位の一人に私の名前があったそうだ。

 父は私にあんな言葉を掛けることで、私を解放したのだ。私はわざと騙されて、海を越えた。
 親類はもちろん、父との一切の連絡を断ち、彼の庇護の下でただがむしゃらに生きて来た。