pp―the piano players―

 私は、彼の腕を抜けてあのピアノへ向かう。膝に力が入らず、その場に崩れてしまった。彼が私の背中に腕を回し、肩を貸して立たせてくれる。

 シュトライヒャーは月光に照らされ、青白く輝いていた。
 私を鍵盤の前の椅子に座らせると、彼は壁に沿って置かれたソファーに浅く腰かける。しっかりと両足を床に置き、それそれの膝に腕を置いて手を組む。

 私は手袋を脱ぎ、そっと鍵盤に触れた。左腕はまだ痛むけれど、気持ちは大分落ち着いてきていた。

「何を」

 彼の呟くような問いに、私は目を合わせずに答える。

「Klaviersonate Nr.32 c-mol, Op.111」