無意識に傷めた左腕と、左腕を傷めた右手。本当にピアノに憑かれているなら、こんなことはしない筈だ。捨てたと思っていた故郷と家族は、しつこく私の脳内に潜伏していた。
彼が私の涙を拭う。
日本を追い出し、彼と出会うべき運命を導いてくれた父は、もう、いない。
彼の腕の中で、私は自分に言い訳をするように、泣きながら父の話をした。
幼い頃に母を病で失ってから、一人で私を育てて来てくれたこと。私に音楽を教え、良いピアニストになるために援助を惜しまず、そのために親類と不仲になってしまったこと。どんなに仕事が忙しくても演奏会には必ず来てくれて、コンクールなどで成績を残す度に、手放しで喜んでくれたこと。私が大学生になって最初の夏に、母と同じ病を患っていることが判明したこと。そしてそれが、治る見込みのない状態であったこと。
彼が私の涙を拭う。
日本を追い出し、彼と出会うべき運命を導いてくれた父は、もう、いない。
彼の腕の中で、私は自分に言い訳をするように、泣きながら父の話をした。
幼い頃に母を病で失ってから、一人で私を育てて来てくれたこと。私に音楽を教え、良いピアニストになるために援助を惜しまず、そのために親類と不仲になってしまったこと。どんなに仕事が忙しくても演奏会には必ず来てくれて、コンクールなどで成績を残す度に、手放しで喜んでくれたこと。私が大学生になって最初の夏に、母と同じ病を患っていることが判明したこと。そしてそれが、治る見込みのない状態であったこと。



