pp―the piano players―

 それから私はこの古いピアノに向かい、毎日毎日ひたすらにベートーベンのソナタを弾き続けた。彼と共に歩むべきピアノを作り、彼を支えたシュトライヒャー夫妻の遺産。耳を病んだベートーベンが求めた音。
 私が弾きたいだけではいけない。ベートーベンが求めた音色で美しく奏でたい。

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「痩せたね」

 二月の半ばに私たちは久しぶりに肌を重ねた。その日は私の誕生日で、私はそんなことを忘れていたのだけれど、彼が用意していたイブニングドレスを着てレストランで夕食を済ますと、彼はハイヤーをホテルに走らせた。

 ショールを取り、私の首筋や腕に手を滑らすと、彼は自分はまだジャケットを脱がないまま私を抱きしめてそう言った。彼の首から知らない香りが漂う。瞼を閉じても匂いは消えないけれど、私は目を瞑り、私のドレスを脱がす彼の手の温かさや、シャツの内側で鳴っている彼のリズムに意識を向けていた。