pp―the piano players―

 この素晴らしいクリスマスの贈り物に、似つかわしい曲は何だろう。私の指が紡ぎ出したのは、彼の前で初めて弾いて否定された、ソナタ。

 テンペスト。
 
 ああ、もどかしい。
 このピアノは、応えてくれない。私の弾きたいピアノ、フォルテ、思い。全てをこのピアノは優しく飲み込んで、柔らかく吐き出す。

「だから言っただろう」
 彼が微笑みながら言う。

「君には表現力がある。君の弾きたいようにベートーベンを弾くには、彼の弾いていたようなピアノでは不十分なんだよ」
 私は悔しかった。
 幼い頃から慣れ親しんでそれが絶対だと信じていたピアノでは、ベートーベンのピアノ曲を表現出来ない。弾き方一つでピアノはどんな音でも出せると思っていたのに。丸い音も、四角い音も、私の弾いて来た漆黒のピアノは何でも出来ると思っていたのに。