現れたのは、飴色をした美しいピアノだった。古風な雰囲気を湛えているそのピアノに刻まれた横文字を読む。
シュトライヒャー。
私は思わず彼を振り返った。
彼は眉を優しく下げて、青い目を緩ます。午後の日差しに包まれた彼は、やはりどこか、天使のようだった。
「さあ、弾いてごらん。君の好きな音楽を、君の思うように。このピアノが、君の望みを叶える」
私は椅子に掛けて、ゆっくり鍵盤の蓋を持ち上げる。この静かなモノクロの羅列が、あの情熱的な音楽を奏でる。
シュトライヒャー。ベートーベンと共に成長したピアノで、私は彼の音楽を弾くことを許された。



