pp―the piano players―

「準備があるんだ。少し、出かけておいで。一時間でいい」

 彼の言葉は弾んでいた。だから私は、厚いコートを羽織り、街をぶらついた。

 前の夜に降った雪が、暖かい太陽の丸い光で少しだけ溶けて、街全体が砂糖菓子のようになる。イベントではなく、神聖な行事としてのクリスマス。無宗教の私は、やはり異邦人なのだけれど、この雰囲気は好きだ。

 私は、雪は降っても滅多に積もらない土地で生まれ育った。そのためか、大人になり毎年のように積雪を目の当たりにしても、心が弾んでしまう。きゅ、きゅ、と雪を踏むブーツの音が嬉しい。

 そうして歩いているだけで、時間はすぐに過ぎていく。彼の家の前に戻ると、見慣れないトラック車が通り過ぎ、彼はそれを見送っていた。