コンクールには片っ端から挑んだ。ショパン、リスト、ラフマニノフ。モーツアルトもシューマンもバルトークも何でも弾いた。

「優勝、」
 ヨシ・シラミネ、と私の名前が呼ばれる度に、彼は両手を挙げて喜んだ。私はこれでやっと、ベートーベンを聞いて貰える、と意気込んだ。


 それでも、彼は私のベートーベンを認めてくれなかった。
「向いていない」

 私は悔しかった。
 でも、彼から離れることはしない。彼と共に作るラフマニノフは、自分が弾いているとは思えない程に美しく聞こえたし、彼の側にいるのは楽しい。また、彼というパトロンがなければ私は生活が苦しく、何よりも私は彼が好きだった。