「感情の揺さぶりが大きすぎる」
 彼は言う。
 でも、ベートーベン。その生涯を思うと、私はそれに同情して弾きたくなる。悲しいところは悲しく、嬉しいところは嬉しく。

「君は表現力がある。だから古典は弾けない」

 そして私に渡したのは、ショパンとリストとラフマニノフだった。


 病弱な男も、自分の腕を鼻にかける男も好きじゃない。でも私は弾いた。ここまで来ても否定される私のベートーベン。認めさせるには、実力で示すしかない。

 ピアノの弾きすぎで死んだ人はいないわ。私は朝から晩までピアノに向かった。
 食事もとらないで、とは言わない。それでは筋力が落ちてしまうから。