ベートーベン。私の目的はそれだけだった。

 日本にいた時に、ソナタは全部弾いた。コンチェルトも大学で弾かせてもらった。でも、父は私の演奏を聴いて一蹴した。
「ふざけている」

「お前が好きだ好きだと言うから、何れ程のものかと期待したが、とんだ期待外れだ。何年ピアノを弾いている、あれでベートーベンの積もりか」

 それから、父には会っていない。コンクールと演奏の仕事でお金を貯めて、大学の卒業と同時に渡欧した。アカデミーに転がり込み、著名な指導者である彼に出会った。

 私のベートーベンを、彼は静かに聴いていた。テンペストを弾き終えた私に、彼は言った。
「君に古典は弾けない」