『ピアノに憑かれた魔女』と言われた。最初に言い出したのはアカデミーの誰かだったけれど、彼はその呼び名をとても気に入っていた。

「ぴったりだよ。君の黒髪はピアノの漆黒と良く合う」
 そう言っては、私の髪を撫でた。

 ブロンドの巻毛にスカイブルーの瞳。ゲルマン人の典型のような彼は、私にラフマニノフを弾かせる。
 彼の人脈で、何度かコンチェルトをさせて貰った。有名な指揮者に、有名なオーケストラ。ラフマニノフのコンチェルトは、四つとも複数回演奏した。どれも良い経験だけれど、私は、ロマン派にかぶれたロシア人の音楽を弾くために海を越えたんじゃない。