「ちゃんと聞いていろよ」

 わたしは大きく頷いた。圭太郎君は振り返ってステージのピアノを睨む。

 空を雲が渡ったのだろう、月の光は遮られてピアノが消えた。両手をぎゅっと握って開く。息をふっと吐く。いつものおまじないを終えた圭太郎君は、見えないピアノに向かってステージに出た。


 闇の中から、パステル色のリボンが綺麗な模様を作りながら絡まっていく、そんなメロディが流れ出す。圭太郎君の長い指が音を編んでいる。