「早紀ちゃん!」
軽やかな足音と明るい声に呼ばれて振り向くと、絵美ちゃんがいた。宮間さんと、あの人がその向こうにいる。
「おはよう、絵美ちゃん。あれ、学校は?」
今は平日の午前中だ。膝を折って尋ねると、絵美ちゃんは誇らしげに胸を張った。
「今日はかじつごーで、先生のお見舞いが終わって、行けたら五時間目から行くの。ね、」
家事都合。絵美ちゃんは、にこにこと宮間さんを見上げた。宮間さんも頷く。
「圭太郎君や、美鈴ちゃんの学生時代の友達が来ると加瀬君から聞いて。そしたら母さんが、挨拶に行きたいって。絵美子も、圭太郎君に会いたいって言うからね」
「早紀ちゃんにはいつでも会えるけど、圭ちゃんは久しぶりだもんね、おばあちゃん」
あの人は深く頭を下げた。ザビーナさんに。
「初めまして、美鈴の叔母です」
ザビーナさんは、大きな目を更に丸くした。
「在欧中、美鈴と親しくしてくださってありがとうございました。今も、こうしてはるばる見舞いに来てくださって」
「ああ」とザビーナさんは声を震わせた。「私、あの手紙を読みました。あなたがヨシ……美鈴に書いた、彼女のお父さんが亡くなったことを伝える手紙」
ザビーナさんはあの人の手を、両手で包むように抱いた。
「そうでしたか」
「初め、とても字が綺麗で、それで読み始めました。あの頃、私は日本語の勉強を楽しんでいました。手書きの文字を見かけることはあまりなくて、それで……読んでいるうちに感じました。この人は、哀しみを堪えて手紙を書いている。早く父と娘を再会させないと、と強く思っているのが、文字から伝わってきました。それで私は、ヨシに、早く日本に帰りなさいと言ったわ」
「おばあちゃん、字が上手なの。お習字の先生をしているんですよ」
絵美ちゃんは屈託なく、初めて出会った異邦人に話しかける。ザビーナさんに近寄って行ったので、わたしは立ち上がった。
「母は習字の先生で、姪っ子はピアニストで絵美子のピアノの先生なんて、手先が器用な血が繋がっているんだね、って、家でよく話しているんです。僕は大雑把だから、二人とも尊敬しますよ。絵美子、」
宮間さんが入って、絵美ちゃんの手を引いた。「おばあちゃん達はお話があるから、部屋の外で待っていようか」
絵美ちゃんは素直に頷き、宮間さんと部屋を出た。それを、圭太郎君が追いかけた。
軽やかな足音と明るい声に呼ばれて振り向くと、絵美ちゃんがいた。宮間さんと、あの人がその向こうにいる。
「おはよう、絵美ちゃん。あれ、学校は?」
今は平日の午前中だ。膝を折って尋ねると、絵美ちゃんは誇らしげに胸を張った。
「今日はかじつごーで、先生のお見舞いが終わって、行けたら五時間目から行くの。ね、」
家事都合。絵美ちゃんは、にこにこと宮間さんを見上げた。宮間さんも頷く。
「圭太郎君や、美鈴ちゃんの学生時代の友達が来ると加瀬君から聞いて。そしたら母さんが、挨拶に行きたいって。絵美子も、圭太郎君に会いたいって言うからね」
「早紀ちゃんにはいつでも会えるけど、圭ちゃんは久しぶりだもんね、おばあちゃん」
あの人は深く頭を下げた。ザビーナさんに。
「初めまして、美鈴の叔母です」
ザビーナさんは、大きな目を更に丸くした。
「在欧中、美鈴と親しくしてくださってありがとうございました。今も、こうしてはるばる見舞いに来てくださって」
「ああ」とザビーナさんは声を震わせた。「私、あの手紙を読みました。あなたがヨシ……美鈴に書いた、彼女のお父さんが亡くなったことを伝える手紙」
ザビーナさんはあの人の手を、両手で包むように抱いた。
「そうでしたか」
「初め、とても字が綺麗で、それで読み始めました。あの頃、私は日本語の勉強を楽しんでいました。手書きの文字を見かけることはあまりなくて、それで……読んでいるうちに感じました。この人は、哀しみを堪えて手紙を書いている。早く父と娘を再会させないと、と強く思っているのが、文字から伝わってきました。それで私は、ヨシに、早く日本に帰りなさいと言ったわ」
「おばあちゃん、字が上手なの。お習字の先生をしているんですよ」
絵美ちゃんは屈託なく、初めて出会った異邦人に話しかける。ザビーナさんに近寄って行ったので、わたしは立ち上がった。
「母は習字の先生で、姪っ子はピアニストで絵美子のピアノの先生なんて、手先が器用な血が繋がっているんだね、って、家でよく話しているんです。僕は大雑把だから、二人とも尊敬しますよ。絵美子、」
宮間さんが入って、絵美ちゃんの手を引いた。「おばあちゃん達はお話があるから、部屋の外で待っていようか」
絵美ちゃんは素直に頷き、宮間さんと部屋を出た。それを、圭太郎君が追いかけた。



