pp―the piano players―

「ナオがいることだ」
 はっきりと言う。
「お前がそれだけ頼れるのなら、良いんだ」

 何が。
 更に問いを重ねようとしたとき、コンコンコン、とドアのガラスを叩かれた。にこにことザビーナさんか窓の外で手を振っている。後ろから、酒井君とニーナさんが続く。

「Bonjour、早紀、圭太郎」
 後部のスライドドアを開けて、ザビーナさんが車に乗る。
「ごめんなさいね、今日もヨシに、しかも早紀と一緒に会えると思うと、準備に時間がかかって」
「それなら、電話したときにそう言ってください。遅くなっても飛行機の時刻は決まっているのだから、白峰美鈴に会える時間が減るだけです」
 ニーナさんがぴしゃりと言う。座ってドアを閉めた。
「Les Allemands sont durs à l'heure.(ドイツ人は時間に厳しいわね)」
 ザビーナさんがわたしにウインクしながら何か言う。
「Je comprends aussi tes mots.(あなたが何を言っているか分かっていますよ)」
 ニーナさんがすかさずフランス語で返した。ザビーナさんは今度は目を丸くしてわざとらしく驚くので、何となく二人の言葉を察する。
 最後に、酒井君が運転席に座った。
「ニーナは一体、何ヶ国語できるんだ」
 笑い声が含まれている。