自分のものではない寝息と肌の温かさがすぐ近くにあった。
 目を開けると、カーテンには朝焼けが映っていて、その手前の一輪挿しには昨日のバラがある。同じベッドで、酒井君はこちらを向いたまま規則正しく静かに寝息を立てていた。
 起きようと体をそっと動かすと、背中に回されていた酒井君の腕に力が入った。
「酒井君?」
 小声で尋ねてみるが返事はない。まだ眠っている。

 昨晩、酒井君は何度も何度もわたしの名前を呼んだ。わたしはそうやって自分の名前を呼ばれることが、こんなにも嬉しいことを知った。そして体の内側から溢れ出る感情の名前を、昨晩は思い出せなかった。
 今、酒井君の寝顔を見てはっと思い付く。その名前を。