「ビール、頼んでいい?」
 ニーナが髪をまとめながら言う。
「ナオも一緒に、と言いたいところだけど、これからまた運転するんでしょう?」
「そうだね。気持ちだけ貰っておくよ」
 僕は手を挙げてウェイターを呼び、ビールとコーヒーを注文する。

「今日はお疲れ様。圭太郎に振り回されて、大変だったね」
 Danke、とニーナはグラスを上げた。一気に半分ほど飲んでしまう。
「ナオもね。せっかく帰国したのに、家族にも友達にも会わないで」
「早紀に会えたから、良いんだ」
「Ach so!」
 アッハゾウ、と相槌が返ってくる。日本語の「ああそう」とほとんど同じ使われ方をする。
「早紀。守ってあげたくなるタイプね。小さくて、優しくて、儚げだけど賢くて」
「内心は力強くて、たくましいんだ。でも自分に厳し過ぎて、時々折れそうになるから」
 ニーナは手を振った。
「こういうときは、なんて言ったかしら……ありがとう、じゃなくて」
 意味が汲めずにいると、ニーナは一人で合点したようで、「ごちそうさま、ね」と呆れたように言った。ビールを飲み干し、二杯目を頼む。