pp―the piano players―

 再び家の中に入る。明かりは小さくついているが、しんとしている。リビングまで出て、階段を登る前に、三階の隅の部屋を見上げた。音も明かりも漏れないが、家の外からは明かりが付いているのが見えていた。
 一度ゆっくり息をした。そして階段を登る。

 二階、三階。
 廊下を真っ直ぐに進み、突き当たりのドアのノブを掴む。ノックはしない。握り、開ける。

 音が、ぶつかってくる。
 雨ではない。もっと圧力を持った、塊だ。形を変えて、こちらに押し寄せてくる波。

 圭太郎が弾いているそれが、先ほどと同じショパンだと気付くのに少し時間が要った。
 圭太郎も同様で、僕がドアを開けたと気付くのに時間がかかったようだ。鍵盤の上で手を止める。

「練習を聴かれるのは好きじゃない。ましてや、お前に」
「練習? これまでのリサイタルのセットリストで、今のワルツが入っていたのを見たことがないけど」
 圭太郎は自分の手に目を向けている。
「人前で弾く曲じゃないからな」
「じゃあ、何の練習なんだ?」