細い肩だ。少し震えている。触れたら、そこから崩れてしまいそうにも見える。
 また、葛藤している。頭の中で、自分の心と。

「早紀」
 絞り出した声が思っていたよりも硬くて、自分自身で驚いたが、そんなことに構ってはいられなかった。
「圭太郎は、ピアノを弾いた?」
 
 花束を手にしたまま、首を振る。
 すこし落胆する。ひょっとしたら、早紀に会えば、圭太郎はまた弾けるのではないかと思っていた。ひょっとしたら、いや、かなり。 
 すこし安堵する、ずるい僕がいる。早紀と圭太郎の特別な関係が薄れたように思えて。

「さっきはピアノの上に寝ていたよ。そのうち、弾くよ。だって、扉が閉まっているでしょ? そうやって練習するんだよ、誰にも聞かせないで」
 声は徐々に弱々しくなった。
「どうしてそんなことを聞くの?」