pp―the piano players―

 椅子が倒れていた。
 床は散乱した楽譜が埋め尽くし、棚を見ればそこに残っているのは半分にも満たない。
 鍵盤の蓋も開けず、大屋根も開けず、圭太郎君はそこに仰向けになっていた。ピアノの上で横になり、じっと天井を見つめていた。

「先生は怒るだろうな」
 そのまま圭太郎君が言う。
「弾いていないことを?」
「いや、こうしていること」
 ピアノに寝るものではない、と先生は言うかもしれない。
「平手が飛んでくるかもな」
 悪い冗談だ。
「……先生はそんなことしないよ」
 ふっと、圭太郎君は息を漏らした。
「そうだな」
 わたしは椅子を起こし、端から楽譜を拾っていく。何に癇癪を起こしてこんなことをしたのかを聞く勇気がない。
「お茶、冷めるよ」
「ああ」
 圭太郎は返事をしても起き上がる様子はないし、この散らかった楽譜をそのままにはできない。

「ねえ、圭太郎君」
 楽譜を棚に戻す。倒れている楽譜は立てて並べる。作曲家のアルファベット順に並んでいる。
 圭太郎君に背を向けたまま、これなら聞ける。
「何をしに来たの。ここに」

 圭太郎君はまだ、起き上がろうとしない。