エレベーターの中で、わたしはあの人に伝えた。
「絵美ちゃんには、先生はわたしの命の恩人だと話していただけませんか」
「命の恩人ね」
「はい。先生がいなかったら、わたしは今ごろどんな人生を送っていたか。先生が救ってくれたから、わたしも手を差し伸べようとして、今、生きていられるんです」
あの人は何か言いかけて、言葉を飲んだ。少し笑っていた。
待合室には、さっきと同じ格好をした加瀬さんがいた。
「加瀬さん」
声をかけると、加瀬さんはやっと身体を起こした。それと同時に、手術室の扉が開いた。
中から出てきたお医者さんが、加瀬さんを見て静かに頷いた。帽子とマスクの間に見える目じりに、深く皺が刻まれる。先生は一命を取り留めた。
先生の家の中は静かだ。
空になった白いカップには、温かみのある電灯の色が映り込んでいる。カップを洗っていると、表の道路に車が止まる音がした。バン、とドアが閉まる。きっと酒井君だ。
「絵美ちゃんには、先生はわたしの命の恩人だと話していただけませんか」
「命の恩人ね」
「はい。先生がいなかったら、わたしは今ごろどんな人生を送っていたか。先生が救ってくれたから、わたしも手を差し伸べようとして、今、生きていられるんです」
あの人は何か言いかけて、言葉を飲んだ。少し笑っていた。
待合室には、さっきと同じ格好をした加瀬さんがいた。
「加瀬さん」
声をかけると、加瀬さんはやっと身体を起こした。それと同時に、手術室の扉が開いた。
中から出てきたお医者さんが、加瀬さんを見て静かに頷いた。帽子とマスクの間に見える目じりに、深く皺が刻まれる。先生は一命を取り留めた。
先生の家の中は静かだ。
空になった白いカップには、温かみのある電灯の色が映り込んでいる。カップを洗っていると、表の道路に車が止まる音がした。バン、とドアが閉まる。きっと酒井君だ。



