pp―the piano players―


 ぱちん、と鋏は音を立てた。

 淡い紅色のバラを摘み取る。先生の庭にはいつも何かしらの花がある。バラを顔に近づけて、その香りを深く吸い込む。気持ちが落ち着く。
 摘んだ花を一つにして花束を作り、先生の家の鍵を確かめて、先生のいる病院に向かう。手術を終えたばかりの先生に負担をかけたくはなかったけど、どうしても聞いてほしいことがあった。相談したいことがあった。

 「先生に会いたがっている人」と酒井君は遠回しに言った。でもそれは圭太郎君のことだ。
 圭太郎君が帰ってくる。酒井君と一緒に。


「もう、どうして加瀬さんがいるの」
 先生の部屋で、加瀬さんが本を読んでいた。
「どうしてって、ひどいなあ、俺は美鈴さんの配偶者なんだよ。病床にいる愛する妻の傍にいて、何の問題があるのさ」
「仕事は?」
「看護休暇さ。うちの会社、福利厚生はいいのよ。早紀ちゃんこそ」
 今日は休みなんです、と持ってきたバラを花瓶に活ける。先生が何か言って、はいはい早紀ちゃんには敵わないね、と加瀬さんは呑気な声を出し、病室から出ていった。