pp―the piano players―

「早紀」
 大学に戻ると、酒井君が講堂の入口で待っていた。既に学位記を受け取っている。わたしたちの番はもうすぐだ。
「探したよ、良かった。電話繋がらなくて……ああ、着替えて来たんだ」
 先に行っているね、と結子が声をかけてくれる。わたしは頷き、酒井君を見上げる。
「酒井君……」
 こんな酒井君を初めて見る。明るくて、冷静で、大らかな酒井君が、動転している。言葉が途切れる。視線があちこちに動く。人目が無けれは今にも泣き出しそうだ。酒井君のそばにいてあげたいと思った。
「今日、早紀のところに行っていいかな」
 ようやく絞り出したかのような声で言う。
「一緒にいたいんだ」

 歩けば三時間くらいなんだろうけれど、酒井君はわたしと一緒にわたしの部屋に帰った。部屋に入ると、幸い割れているものはなかったが、あちこちにものが散乱していた。
「待って、片付けるから」
「手伝うよ。それよりまず、結子さんに連絡するんだろ?」
「そうだね」
 電話をかけてみるが繋がらない。SNSの方が確かだ、と帰り道で酒井君に教わったので試してみる。すぐに返信があった。