その日は、大学の卒業式だった。
 結子は地元の銀行に務めることになり、愛美は教職に就く。わたしは大学院に進学する。午後からの卒業式だったので、午前中に待ち合わせて美容室に行き、一緒に選んだ着物と袴を着付けてもらった。大学に着くと何度も、あちこちで、たくさんの人と写真を撮った。
 構内のホールが会場で、その目の前に立つ早咲きの桜は、青空に枝をいっぱいに広げて花を風に揺らせていた。
「早紀」
 呼ばれて振り返ると、酒井君がいた。深いグレーのスーツは細身の仕立てで、酒井君によく似合っている。
「あ」
 酒井君を見て結子が声を挙げる。
「ほんとだ」
 愛美も応える。酒井君はにこっと笑う。
「二人も一緒だったんだってね」
「え、早紀、そんなことまで言ったの?」
「良いのに、酒井君のために一人で選んだってことにして」
 今日酒井君が結んでいるネクタイは、就職内定のお祝いにわたしから贈ったものなのだ。二人と、それから結子の彼氏さんも連れて、かなり悩んで選んだ。
「二人で写真撮ったの?」
「ほら早く。酒井君、カメラは」
 二人に促され、青空と桜をバックに、酒井君のスマートフォンで写真を撮られる。風が少し強くて、セットしてもらった髪が揺れる。気にしていると、酒井君の腕が伸びてきて、髪に触れた。綺麗だよ、よく似合う。囁かれて、頬が熱を持った。