「もう何か所か、彼にコンタクトを取っているそうだけど」
 ニーナから資料を受け取り、それに目を通す。ドイツ語にはまだ不慣れなので、彼女が用意してくれた英語の資料が嬉しい。

 吉岡圭太郎。まさかこんな形で圭太郎に会いに来るとは思わなかった。
 ここ三年の圭太郎の活動経歴だ。巨匠ライスターのもとで腕を磨き、多くのコンクールに挑んでいる。日本で調べていたものもあるし、受賞歴だけでなくリサイタルの批評も連ねれてある。


 1988年、日本に生まれる。11歳でYoshi Shiramineに師事。2009年、C.W.Leisterに見出され来独。以後Leisterのもとで活動を続ける。○○国際音楽コンクール、○○ピアノコンペティション、○○音楽院ピアノコンクール等の国際コンクールで上位入賞。
「確かな技術と情熱的な演奏。」
「研ぎ澄まされた才覚に聴衆は喝采。」
「一つ一つの音は黒曜石のような輝きと鋭さをもって我々に突き刺さる。」
「大胆な演奏、少々荒さもある。」
「東洋からの迷い猫。哀れな黒猫。」


「友人の活躍が嬉しいのね」
 その言葉にはっとしてニーナの顔を見る。
「嬉しい……?」
「そういう顔をしているわ。あら、違ったの?」
 そう言われると、どういう表情をして良いのかわからない。圭太郎のことを「友人」と呼んでいいのかも、いまだにわからないのに。
「ニーナ」
 話を逸らしたいのもあったが、もともとこちらが本題だ。気になっていることを訊く。
「この評を書いたのは誰だろう」
 ペンで指す。

 
"He is the illusion cat which came from the East completely.
A sad black cat."