圭太郎が乗ったミュンヘン行きの飛行機を見送り、早紀は笑顔で振り返った。あの日から五年の月日が経ち、僕らはあの頃より少し大人になった。
 

 国内の出張は何度か経験したが、海外出張は初めてだ。そこまでしか早紀には言えない。彼女に隠し事をしたくないけれど、誰に会うのかは伝えたくなかった。意地だ。
 早紀の柔らかい髪が鼻をくすぐる。腕の中の肌は滑らかで、女性特有の丸い線は僕の心をも丸くする。甘い記憶に包まれて朝を迎える。時差ボケはない。良かった。
 会社が借りた部屋のカーテンを開ける。眼前に異国の街並みが広がる。