安心しろ、安心しろ、と圭太郎が呪文のように唱える。早紀の呼吸が整ってくる。白峰美鈴の瞳が、決意に潤んだ。この三人を、どうして放っておける。

「さっきの話、もう一度お願いしたい。私は、あの子たちの力になりたい。そのための力を、あなたから借りたい……」

 人は変わる。人の出会いや別れで人は変わる。
 谷治さんに出会った俺が調律師の道を選んだように。
 白峰美鈴が二人と出会って生きる力を得たように。

「あなたは、私のピアノを取り戻してくれた」
 あるいは早紀が言うように、ピアノという媒体で俺が白峰美鈴を輝かせたように。

 ドイツでシュトライヒャーを通じて掠めた繋がりを、今ここでしっかりと結びたいと思う。差し出した腕に応える腕が伸ばされている。腕を取り、固く握ろう。あなたの、あなた達の変化を見ていたいんだ。
「もちろんです、美鈴さん」
 美鈴さんは口元を緩めた。安堵の表情を浮かべる。優しく、美しい顔だ。

fin.