pp―the piano players―


 待たせ過ぎたわね、と白峰美鈴は席を立ち、階段を上っていく。こちらを振り返って、早紀のそばについていてほしいと言った。早速、か。

 俺がソファーに座るのと、白峰美鈴が圭太郎が待つ部屋のドアを開けるのがだいたい同時だった。ドアを開けたとたん、叩きつけるような雨が容赦なく吹き込んでくる。圭太郎のベートーベンは、いやベートーベンに限らず、荒っぽい弾き方をする。
 圭太郎は決して、天才とか神童とかと呼ばれる類のピアニストではない。だが才能はある。どこかでレールを逸れた上等な機関車が、原動機とタイヤでもって自力で山を登ってきたような、そういう我流の弾き方をする。白峰美鈴は、彼の馬力を維持したままで、レールに導こうとしているのだ。

「加瀬さん」
 声をかけられて我に返る。早紀が栗色の髪の間から、大きな瞳を覗かせる。
「加瀬さん、先生のことが好きなんでしょう?」
 自分の言ったことに照れたのか、早紀は真夏だと言うのにタオルケットを頭まで被った。
「……起きていたのか」
 タオルケットの主がもぞもぞと動く。
「そうか」