pp―the piano players―

 ふう、と息を吐いた。ライシュターの顔を見ると、深く頷いた。「弾きますか」と聞くと「Machen Sie.(君が)」と返された。現地の調律師と顔を見合わせたが、彼が、やれよ、と促すので、俺は椅子にかけた。
 飴色のピアノが構えている。俺はそっと手を置いて、シュトライヒャーを弾いた。ライシュターがふっと笑みをこぼした。ベートーベンが求めたピアノで、俺はバッハの平均律を弾いた。すぐに、ライシュターの鼻歌が重なる。グノーのアベ・マリア。弾きながら、窓の外の景色を思った。照る雪のような、素朴な輝きを持つ音色だ。

「ありがとう」
 弾き終わって、ライシュターの口から日本語が零れたのが印象的だった。

 
 まさか、そのピアノを贈られた人物が目の前に座っている白峰美鈴だったとは。シュトライヒャーはここにはない。ライシュターのもとにあるのだろう。
 たった今聞かされた彼女の決意は、日本でやることだ。ドイツに戻ることはないと覚悟したのだ。

 この子等のために。