pp―the piano players―

「白峰さん、美鈴ちゃんの父親はなあ、美鈴ちゃんの才能を信じて」
 たくさんの結果がそれを証明している。
「親族と不仲になってしまってな。楽器の買い付けったって、さして儲かる仕事じゃない。あそこの家は代々資産家だったけれど、白峰さんの代で郊外の田畑や、土地は全て売ったそうだよ。それでなおさら、特に妹が大怒りだってさ」

 他人の懐事情など、あまり楽しい話ではない。増してや、あの佳人に金の話は似合わない。
「加瀬、お前ならどうする」
 不意に話を振られる。
「どうするって、何をどうするんです。知りませんよ、家の中のことなんて。俺は仕事をしにいくだけです」
 不満気な声でしか返答できなかった。

 矢治さんはウーロン茶を口にした。口元だけで笑った。
「仕事って言っても、金は受け取ってないって話じゃないか」