pp―the piano players―

 すごいな、と思った。
 そんなことができるのか、と。

 自分もそうなりたい、と思うようになるまで、あまり時間はかからなかった。半分が大学へ行き、四分の一が専門学校、残り四分の一が就職という進路を選ぶ高校だ。専門学校へ行くという俺の希望は、わりあいすんなりと通った。
 
 それから。
 白峰家のスタインウェイを触りながら、一人笑ってしまう。思い出し笑いだ。

 人の縁とはおかしいものだ。
 専門学校で調律のいろはを学び、伝手でこの会社に雇われた。そこに、大先輩である矢治さんがいたのだから。
 まるで、矢治さんに会うためにこの道を選んだようだ。

 正社員としては退職していたけれど、技術指導者として俺にたくさんのことを教えてくれた。数年前にちょっと話をしただけの高校生のことなんか、矢治さんは覚えていなかったが。海外研修の話が出たときに矢治さんが俺を推してくれたとも聞いた。