演奏会は終わった。あっけないほど、スムーズに。
リハーサルでの違和感は、本番でも感じた。何か違う。家のピアノとも、学校のグランドピアノとも。これが矢治さんの言っていた違いか。
弾き応え然り、それ以上に音。明るい音だ。
男声合唱を支える、さらにしっかりした低音と、輝きを与える高音。
「初めてスタインウェイを弾きました」
打ち上げ会場で、プロのピアニストに話しかけられた。緊張したでしょう。いやそれほど、でも。
「どうだった?」
感想を伝える。
「ああ、それは」
矢治さんの力だね。
「矢治さん、あの調律師のお爺さんの力、ですか」
音が違うのは、ピアノが違うからだけではない。そのピアニストの顔は忘れてしまったが、言葉は覚えている。
「このホールの大きさや、伴奏か独奏か、そういう都合に合わせて響きや音を調整しているんだよ。今日なら、七百人のキャパのホールで、男声合唱の伴奏を、売れないピアニストとただの高校生が弾いて、どちらも良くきこえるようにね」



