決して自分の腕に自信があったわけではないが、久しく感じていなかった「自分への期待」というものにほだされていた俺は、軽いショックを受けた。
「高校生の合唱の伴奏なんて、ほんと、金にならない仕事だろうけどさ。友情プライスだってさ」
むろん、俺に礼金は払われない。
「まあ俺はさ、お前の弾いてくれるステージの曲の方が好きなんだ。頼むよ」
友人は、さわやかな笑顔を残して立ち去った。昼飯時である。これから合唱部の昼練習があるのだ。
プロに頼んだのに、俺を断らないということは、つまり俺も本番に出なくてはならないということだ。商売人と肩を並べることはできないが、頼まれた以上はやるべきことはやらねばならない。生真面目に、任された十分強の時間のために、こつこつと練習をしていく。
いつの間にか母親が合唱の部分を覚えていて、家のピアノで弾くともれなく鼻歌が載ってきた。鏡台の近くに母親のお気に入りのワンピースがクリーニングの袋に入って釣るしてある。
当日を迎えた。母親はめかし込んでいたが、当事者である俺は高校の制服だ。しかし、昨日脱いだ場所ではなく、スラックスにはアイロンが当てられて、ブレザーには埃などなく、もちろんワイシャツもしわ一つない。どうせ自転車をこいで電車に揺られるうちにいつも通りになってしまう。
弁当を渡されて、今日の開演時間をまた確認された。高校がある隣の市の、市民ホールが会場だ。
午前中にステージリハーサルをし、昼食をはさんで午後から開演だ。
本当の当事者である合唱部員たちは、ステージのセッティングやらパンフレットへのチラシの挟み込みやら、発声練習やらで慌ただしい。俺は、自分のステージのリハーサルまで特にすることもなく、客席をふらふらしていた。
「高校生の合唱の伴奏なんて、ほんと、金にならない仕事だろうけどさ。友情プライスだってさ」
むろん、俺に礼金は払われない。
「まあ俺はさ、お前の弾いてくれるステージの曲の方が好きなんだ。頼むよ」
友人は、さわやかな笑顔を残して立ち去った。昼飯時である。これから合唱部の昼練習があるのだ。
プロに頼んだのに、俺を断らないということは、つまり俺も本番に出なくてはならないということだ。商売人と肩を並べることはできないが、頼まれた以上はやるべきことはやらねばならない。生真面目に、任された十分強の時間のために、こつこつと練習をしていく。
いつの間にか母親が合唱の部分を覚えていて、家のピアノで弾くともれなく鼻歌が載ってきた。鏡台の近くに母親のお気に入りのワンピースがクリーニングの袋に入って釣るしてある。
当日を迎えた。母親はめかし込んでいたが、当事者である俺は高校の制服だ。しかし、昨日脱いだ場所ではなく、スラックスにはアイロンが当てられて、ブレザーには埃などなく、もちろんワイシャツもしわ一つない。どうせ自転車をこいで電車に揺られるうちにいつも通りになってしまう。
弁当を渡されて、今日の開演時間をまた確認された。高校がある隣の市の、市民ホールが会場だ。
午前中にステージリハーサルをし、昼食をはさんで午後から開演だ。
本当の当事者である合唱部員たちは、ステージのセッティングやらパンフレットへのチラシの挟み込みやら、発声練習やらで慌ただしい。俺は、自分のステージのリハーサルまで特にすることもなく、客席をふらふらしていた。



