pp―the piano players―

 初日は、その三台を見て終わった。
 夕方から雨になった。香りの高い紅茶を出されて、味わう。
「雨ですね」
「ええ」 
「この家は、湿気は?」
「さほどには」

 解っているだろうが、梅雨時の注意を幾つか話す。彼女は素直に頷いて聴く。
「明日の夕方、また来ます」
 一方的に決めつける。が、こうでもしないとまた、彼女は拒むかもしれない。
「早く、白峰さんに音楽が戻るように」
 協力したいのだ。そう告げると、彼女は僅かに、少しさびしそうに笑った。それでも、美しいと思った。

***

 日曜日の朝も雨だった。午前中は店に出る。
「どうだ、塩梅は」
 店長に聞かれる。
「話したら、昨日の分の給料もらえますか」
 戯れてみるが、内心は穏やかでない。昨日の夜は、目が冴えてなかなか寝付けなかった。目を閉じると、あの精緻な構造、弦の一本一本がありありと思い出される。ハンマーの締め具合はあれで良かったか、日の当たり方をもっと考慮すべきではなかったか。考えればきりがない。

「今日の夕方にまた行きます」
「そうか」
「あの、店長」
 矢治さんの家の住所を訊いた。