pp―the piano players―


 二台のベーゼンドルファー。どちらも弾き込まれて、鍵盤が細かく傷ついている。
「塗り直しますか」
 彼女に問う。また首を振られる。鍵盤のタッチが変わるからだろう。
 矢治さんの覚え書きには「全く同じにする」とあった。音程は当然、タッチや響きも合わせる。慣れているのだろう、彼女は指示した通りに鍵盤を押す。

「運命のピアノなのよ」

 日がよく差し込む部屋だ。輪郭の曲線を鮮やかに描き出す。
「運命」おうむ返しに聞いた。

「同じ木を材木にして、同じ職人が携わって、どちらも日本に渡ってきた」
 ベーゼンドルファーはオーストリアのメーカーである。求めれば手に入るが、日本にもピアノメーカーはある、日本にある絶対数は国産には及ばない。
「それが、」
 言いかけて、止めた。光は、彼女の輪郭をも金色に縁取る。

「どうしたんです?」
「いえ」
 口をつぐんだ彼女は、あとは淡々と作業していた。