pp―the piano players―

 このひと、大丈夫か。
「あの、」
「ごめんなさい、もう良いのです」
 と、電話は切られた。
 何なんだ。

「営業、失敗か?」
 店長の声は、本気の心配だ。そりゃそうだろう。長い付き合いのある客だ。
「……諦めは禁物なんですよね」
 電話を取り、再度ダイヤルする。開きかけた手帖を片手で完全に開いて押さえ、睨みつける。

「はい」
「来月の頭の土曜日の午前中に伺います」
「……ああ。結構と言った筈」
「いえ、伺います」
 これでは押し売りだ。自分でもそう思う。

「あんた、親父さんのおかげで、長い間外国で音楽ができたんだろ?」
 店長が目を丸くしてこちらを見ている。加瀬、相手はお客だぞ。とその目が語る。
「それを、親父さんが亡くなったからって、どうして辞める? 聴かせる人がいないって、あんたは」
「加瀬、」
 店長が俺の手から受話器を取り上げた。

「白峰様、大変失礼いたしました。申し訳ございません」
 へこへこと頭を下げて、謝罪の言葉を連ねる。俺は不甲斐無さを感じてそれを見ている。同僚に体を抑えられていた。